「自分がLGBTQ+であることを、本人の許可なく誰かに話された」
「信頼していた友人に、性的指向や性自認をほかの人に知られてしまった」
「悪気はなかったと言われたけれど、勝手にカミングアウトされて傷ついた」
このような経験は、LGBTQ+当事者にとって大きな精神的負担になることがあります。

本人の許可なく、性的指向や性自認などの個人的な情報を第三者に伝える行為は「アウティング」と呼ばれます。

アウティングは、単に秘密を漏らすこととは違います。
本人が誰に、いつ、どのように自分のことを伝えるかという、プライバシーや自己決定権に関わる問題です。
では、どこからがアウティングに該当するのでしょうか。また、実際にアウティングされた場合、どのように対応すればよいのでしょうか。
この記事では、アウティングの意味や具体例、調査データ、実際の裁判例、被害に遭ったときの対処法について解説します。

そもそもアウティングとは?

アウティングとは、本人の同意を得ずに、その人の性的指向や性自認などを第三者に暴露する行為です。

例えば、本人が同性を好きであることを友人にしか話していなかったにもかかわらず、その友人が別の人に「あの人はゲイなんだよ」と話してしまうケースが該当します。
また、トランスジェンダーであることや、出生時に割り当てられた性別と現在の性自認が異なることなどを、本人の許可なく周囲に伝えることもアウティングになり得ます。

重要なのは、情報を伝えた人に悪意があったかどうかだけではありません。
「別に悪口として言ったわけではない」
「仲の良い人に話しただけ」
「みんな知っていたほうが本人も楽だと思った」
このような理由があったとしても、本人の同意なく個人的な情報を第三者に伝えれば、アウティングに該当する可能性があります。
また、アウティングは必ずしも本人が完全に秘密にしていた情報を暴露する場合だけに限りません。
例えば、友人にはカミングアウトしていても、職場や家族には知られたくないという人もいます。

誰に、どこまで自分のことを伝えるかは本人が決めることであり、一度カミングアウトしたからといって、ほかの人に自由に話してよいわけではありません。

どこからがアウティング?境界線は?具体的な事例5つ

アウティングという言葉は知っていても、具体的にどのような行為が該当するのか、判断に迷う人もいるでしょう。ここでは、日常生活で起こりやすい事例を紹介します。

1. 友人や知人に性的指向を勝手に話す

例えば、友人から「実は自分はバイセクシュアルなんだ」と打ち明けられたとします。
その話を別の友人に対して、「あの子ってバイセクシュアルなんだよ」と伝える行為は、アウティングに該当し得ます。
たとえ相手が仲の良い友人であっても、本人が話すことを許可していなければ、第三者に伝えてよい理由にはなりません。

2. 職場や学校で本人の許可なく共有する

職場の同僚や学校の友人に、自分がLGBTQ+であることを知られたくない人もいます。
しかし、誰かが本人の許可なく上司や同僚、先生、クラスメートなどに情報を伝えてしまうことがあります。
例えば、職場で「〇〇さんは同性のパートナーと暮らしているらしいよ」と話すことも、本人の同意がなければアウティングになり得ます。

学校でも同様です。先生が本人の許可なく、ほかの生徒や保護者に性的指向や性自認を伝えることは、深刻な問題につながる可能性があります。

3. SNSやインターネットで公開する

SNSへの投稿やコメント、写真の掲載などによって、本人の性的指向や性自認が広まってしまうケースもあります。
例えば、本人が公開していない恋人との写真を投稿したり、SNS上で「実はこの人、トランスジェンダーなんだよ」であったり「この人はゲイ」と書き込んだりする行為です。
インターネット上の情報は、一度拡散されると完全に削除することが難しい場合があります。
軽い気持ちで投稿した内容が、本人の生活や人間関係に長期的な影響を与えることもあります。

また、SNS上の画像を保存し「ゲイの集団旅行の画像が○○」などどいった匿名で人権を侵害するようなポスト、引用リツーイトなどもアウティングの対象になります。

4. 本人が一部の人に話している情報を別の人に伝える

「本人が自分でカミングアウトしているなら、誰に話しても問題ない」と考える人もいるかもしれません。
しかし、それは違います。
例えば、本人が仲の良い友人にはカミングアウトしていても、家族や職場には知られたくないというケースがあります。
誰に伝えているか、どの範囲まで共有してよいかは、人によって異なります。
一度カミングアウトしたからといって、すべての人に情報を共有してよいわけではありません。

5. 本人の同意なく推測した情報を広める

「もしかしてゲイなのでは?」「見た目や話し方からしてトランスジェンダーだと思う」
このように、本人が公表していない情報を推測し、周囲に広める行為にも注意が必要です。
推測が間違っていたとしても、本人のプライバシーや尊厳を傷つける可能性があります。
大切なのは、本人がどのように自分を認識し、誰に何を伝えたいと考えているかを尊重することです。

アウティングの被害はどのくらいある?調査データから見る実態

内閣府の会議資料に掲載された日高庸晴氏による2022年の調査では、回答した性的マイノリティ当事者の21.7%が、アウティング(暴露・バラされた)被害を経験したと回答しています。

さらに、属性別ではFTMの52.3%、MTFの41.5%が被害を経験したという結果も報告されています。

これらは調査回答者における割合であり、すべてのLGBTQ+当事者にそのまま当てはまる数字ではありません。しかし、アウティングが決して軽視できない問題であることがうかがえます。

また、Indeedが2023年に公表したLGBTQ+当事者の仕事や職場に関する調査では、現在の職場でカミングアウトしていない人が75.8%にのぼりました。
職場で自分の性的指向や性自認を公表するかどうかは、本人が慎重に判断している場合があります。

家族や職場の人間関係、差別や偏見への不安など、その理由は人によって異なります。
こうした背景を考えると、本人の許可なく情報を広めることが、どれほど大きな問題につながるのか理解できるのではないでしょうか。

当サイトではLGBTQ+の方をはじめ、当事者をサポートするAllyの方に向けた”ライフプラン”に関する記事も作成しています。

実際にあったアウティング事件「一橋大学アウティング事件」

アウティングの問題を考えるうえで、よく知られているのが2015年に起きた「一橋大学アウティング事件」です。

この事件では、一橋大学の大学院に通っていた男性学生が、同級生に対して同性が好きであることを伝えました。しかし、その情報が本人の同意なく、ほかの学生がいるグループチャットで共有されてしまいました。
その後、男性学生は精神的に追い詰められ、大学構内の建物から転落しました。搬送先の病院で死亡が確認されています。
遺族は大学側の対応などをめぐって訴訟を起こしました。
この事件は、アウティングが単なる秘密の暴露ではなく、当事者の尊厳や安全に深く関わる問題であることを社会に広く認識させるきっかけとなりました。
また、大学などの教育機関が、性的指向や性自認に関する情報をどのように取り扱い、学生の安全を守るべきなのかという課題も浮き彫りになりました。

この事件からも分かるように、アウティングによる影響は決して小さなものではありません。

アウティングされたらどうする?具体的な対処法5つ

実際にアウティングされてしまった場合、突然の出来事に驚いたり、怒りや悲しみ、不安を感じたりすることもあるでしょう。
「どうして勝手に話したの?」「これから周囲にどう思われるんだろう」「もっと早く対処すればよかった」
さまざまな感情が生まれるかもしれません。
まず知っておいてほしいのは、アウティングされたことについて、あなたが自分を責める必要はないということです。
ここでは、被害に遭ったときに考えられる対処法を紹介します。

1. 無理にすべての人へ説明しようとしない

アウティングされた後、周囲の人から質問されたり、事情を聞かれたりすることがあるかもしれません。
しかし、自分の性的指向や性自認について、すべての人に説明する必要はありません。
話したくない場合は、無理に答えなくても大丈夫です。
「その話については答えたくありません」「個人的なことなので、これ以上聞かないでください」
このように、自分の気持ちや境界線を伝えることも一つの方法です。

2. アウティングの証拠を残す

アウティングによって嫌がらせや不利益が生じている場合は、可能な範囲で証拠を保存しておきましょう。
例えば、SNSやメッセージのスクリーンショット、アウティングが行われた日時や場所、誰が誰にどのような情報を伝えたのか、その後に起きた嫌がらせや不利益の記録などです。
後から相談機関や学校、職場などに状況を説明するときに役立つ可能性があります。
ただし、証拠を集めるために無理をしたり、相手と直接やり取りして危険な状況になったりする必要はありません。

3. 信頼できる人に相談する

一人で抱え込まず、安心して話せる人に相談することも大切です。
友人やパートナー、家族など、あなたの意思やプライバシーを尊重してくれる人がいれば、まずはその人に話してみるのもよいでしょう。
身近な人に相談しにくい場合は、LGBTQ+に関する相談を受け付けている団体や専門窓口を利用する方法もあります。
相談するときは、最初からすべてを話す必要はありません。
「自分の許可なく個人的な情報を広められて困っている」「今後、どのように対応すればよいか相談したい」
このように、伝えられる範囲から話してみましょう。

4. 職場や学校に対応を求める

職場でアウティングされた場合は、人事部やハラスメント相談窓口、信頼できる上司などに相談する方法があります。
学校の場合は、担任の先生、スクールカウンセラー、学生相談室などが相談先になります。
例えば、関係者への情報共有を止めてもらうことや、SNSなどに投稿された情報の削除を求めること、嫌がらせや差別的な対応を防止してもらうことなどが考えられます。
ただし、相談したことによって情報がさらに広まってしまうことを不安に感じる人もいるでしょう。
その場合は、最初に「この相談内容を誰に共有するのか」「どのように情報を管理するのか」を確認しておくことが大切です。

5. 法律や専門機関への相談も検討する

アウティングは、状況によってプライバシー侵害や不法行為などの法的問題になる可能性があります。
実際にどのような法的対応が可能かは、情報の内容や伝えられた状況、発生した被害などによって異なります。
一人で判断するのが難しい場合は、弁護士や法務局などの専門機関に相談することも選択肢の一つです。

アウティングは法律で禁止されている?

日本では、アウティングを防止するための取り組みが進められています。

例えば、東京都では2018年に制定された「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例」に基づき、性的指向や性自認に関する差別の解消や啓発を推進しています。

また、2023年6月には「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」、いわゆるLGBT理解増進法が公布・施行されました。

この法律では、性的指向やジェンダーアイデンティティの多様性について理解を深めるための施策や、国・地方公共団体・事業主・学校の設置者などの役割が定められています。

職場においては、性的指向や性自認に関する侮辱的な言動などのSOGIハラスメントや、本人の許可なく性のあり方を第三者に伝えるアウティングについて、ハラスメントに該当する場合には企業に適切な対応が求められます。
ただし、アウティングという行為すべてを一律に処罰する全国共通の法律があるわけではありません。

状況によっては、プライバシー侵害や不法行為として損害賠償請求などが問題になることもあります。

「法律で一律に禁止されていないから問題ない」ということではありません。本人の尊厳やプライバシーを守るためにも、十分な配慮が必要です。

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アウティングに遭ったときに利用できる相談窓口

アウティングについて誰かに相談したい場合、LGBTQ+に関する専門相談や人権相談などを利用できます。
例えば、法務省が設置している「みんなの人権110番」では、差別やプライバシー侵害など、人権に関する相談を受け付けています。

みんなの人権110番   0570-003-110

また、「よりそいホットライン」では、生活上のさまざまな悩みに対応しており、セクシュアルマイノリティに関する相談も受け付けています。音声ガイダンスに従って専門相談につなぐことができます。

よりそいホットライン 0120-279-338

東京都に住んでいる人であれば、東京都が設置する「Tokyo LGBT相談」も利用できます。性自認や性的指向に関する悩みについて、電話やLINEで相談できる窓口です。
そのほか、地域のLGBTQ+支援団体や当事者団体でも相談や情報提供を行っている場合があります。
相談することは、必ずしも法的な対応を求めることではありません。まずは自分の気持ちを整理したい、今後どうすればよいか知りたいという段階でも、相談窓口を利用できます。
※電話番号や受付時間、相談方法は変更される場合があるため、利用前に各窓口の公式情報を確認してください。

アウティングを防ぐために周囲ができること

アウティングを防ぐためには、被害に遭った人だけでなく、周囲の人が正しい知識を持つことも大切です。
誰かからカミングアウトされた場合は、その情報を第三者に話してよいのか、必ず本人に確認しましょう。
「この話は誰まで知っているの?」「ほかの人に話しても大丈夫?」「誰かに伝えておいたほうがいい?」
こうした確認をすることが、アウティングの防止につながります。

また、本人がカミングアウトしている場合でも、すべての人に知られてよいとは限りません。
職場や学校などで本人の情報を共有する必要がある場合も、共有する情報の範囲や相手を慎重に検討する必要があります。

本人が安心して自分らしく過ごせるように、情報の取り扱いには十分な配慮が必要です。

何気なく使っている言葉が、誰かを傷つけてしまうことがあります。

悪意がなくても偏見につながる表現は避け、お互いを尊重できる言葉選びを意識しましょう。

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