人とのつながりを大切に。九州男のかつきさん
「僕、大学に通ったことはないんですけど、教壇には立ったの(笑)」。講演の話を聞くと、学食で学生気分を楽しんだ思い出まで出てきました。新宿二丁目「九州男」のかつきさんは、そんな話で笑わせてくれる人。友人でスタッフのせいじさんとの掛け合いから、お客さんに過ごしてほしい時間まで、九州男での会話と店づくりについて伺いました。
かつきさん
九州男のかつきです。沖縄出身で、28歳のときに上京しました。最近は硬式テニスとジムに夢中です。テニスは約10年ぶりに再開しました。スタッフと一緒に、お客さんと笑って過ごせるお店にしていきたいと思っています。
九州男への入口
新宿二丁目のゲイバー「九州男(くすお)」へ、かつきさんに会いに伺いました。
まずは、建物の外観からお店の扉前までを写真でご紹介します。初めて訪れる方も、来店前に入口の様子を確かめてみてください。


九州男の店内
扉の先に広がるのは、カウンターとテーブル席のある広い店内。かつきさんによると、お客さんの年代はさまざまで、友人同士で訪れる方も、一人で飲みに来る方もいるそうです。
平日はゆっくり話せる時間もあり、週末はグループのお客さんでにぎやかに。スタッフと会話を楽しむ方も、テーブル席で連れの方と話す方もいて、同じ店内でも過ごし方はそれぞれだといいます。



カウンターで話すなら
この日の取材には、かつきさんの友人であり、九州男のスタッフでもあるせいじさんが同席してくれました。まずは、広い店内での過ごし方から。かつきさんとゆっくり話したいときは、どんな席や時間がよいのでしょうか。
店内が広いので、何人かで来られる方も多いんですか?
多いですね。週末は混み合うので、奥の席のお客さんとは、僕がゆっくりお話しできないこともあります。一人、二人でカウンターに座っていただくと、お話ししやすいですね。平日は、ゆっくり会話をしたり、ワイワイ楽しんだりしています。
カウンターでお話しするのもいいですし、あちらの席なら、二人だけで過ごすこともできそうですね。
そういうふうに楽しんでいる方もいますよ。にぎやかなところにはいたいけれど、二人で話していたい。そんなふうに見える方もいるの。実際にどう思っているかまではわかりませんが、過ごし方はいろいろですね。
せいじさんとの掛け合い
話している間も、せいじさんの補足が絶妙なタイミングで入ります。二人は、お店だけでなく講演でも一緒に話すことがあるそうです。
せいじさん、相づちや補足のタイミングがぴったりですね。
講演のときも、一緒に来てサポートしてもらっているんです。壇上で一緒に話すこともあります。
予定の管理もしてくださるんですか?
僕がスケジュール管理をうまくできないので、予定が立て込むとお願いしています。「5分後には舞台だよ」とか、僕がつい話しすぎると「そろそろお時間ですよ」とか(笑)。
せいじさんのサポートぶりから、「マネージャー」という呼び名も話題に。「優秀なマネージャーがいます」「なんなら録音もあります」とやり取りが続き、取材はしばらく笑い話になりました。
こんなに息が合う二人ですが、考え方はそっくりというわけではありません。
せいじさんとは、生き方や考え方が真逆なんです。講演でも僕と違う意見が出るから、その対比が面白いの。「多様性の中にも、さらに多様性がある」って気づきました。
スタッフも楽しめるお店に
今、店づくりで一番大切にしたいことは何ですか?
お客さんを大事にするのはもちろんですが、今、一番思うのはスタッフを大事にしたいということです。スタッフ同士が仲よく、明るくワイワイ楽しんでいる。そこに、お客さんにも加わってもらいたいの。
スタッフさんが楽しそうだと、お客さんも一緒に楽しめそうですね。
そうですね。まずは自分たちが楽しんでいたいんです。「今日も仕事か。行きたくないな」ではなく、「今日も早くお店に行きたい」と思えるような環境をつくりたいですね。
コロナ禍で、その大切さをより深く考えるようになった面もありますか?
そうかもしれませんね。あの頃は、営業したくても決められた時間までしかできませんでしたから。
働きやすい環境にするために、かつきさん自身が大切にしたいことはありますか?
今は、以前自分でしていた仕事も、スタッフに任せられるようになっています。だから僕は、給料を上げることや、働きやすい環境をつくることを大切にしたいですね。
お客さんには、九州男でどんな時間を過ごしてほしいですか?
やっぱり、人が集まる場所であってほしいです。笑いが絶えない場所がいいけれど、もちろん、泣いていてもいいんです。失恋したときに、泣きながら相談できる場所でもあってほしいの。毎週来なければ、と気を遣うのではなく、ふらっと立ち寄れるお店として続けていきたいですね。
学食も楽しみだった大学
かつきさんは、家族や友人との対話を描く映画『沖縄カミングアウト物語 かつきママのハグ×2珍道中!』にも出演しています。その話を聞くと、大学で過ごした時間の話へ。
映画に出演されたのは、どんなきっかけだったんですか?
松岡監督が「カミングアウトハグ」という企画で、カミングアウトした人を取材したいと声をかけてくださったんです。それで、僕がYouTubeの取材を受けたの。反響が大きかったそうで、今度は映画をつくりたいという話になりました。両親や友人、きょうだいにも取材をして、あの映画ができたんです。
その映画が、大学でお話しするきっかけにもなったんですね。
そうなんです。せいじさんと一緒に、ゲストスピーカーとしてお話ししました。僕、大学に通ったことはないんですけど、教壇には立ったの(笑)。
すごいですね(笑)。
授業の3時間前には着いて、二人で学食を食べたり、校内を歩いたり。学生気分を味わってから教壇に立つの。映画のおかげで、これまで経験できなかったことを、いろいろさせてもらいました。
学食も楽しみつつ、お話しする内容は事前にしっかり打ち合わせるんですね。
先生が僕らを呼んで何を伝えたいのか、学生さんに何を考えてほしいのかは、先に知っておきたいんです。「こういう話し方でいいですか」と確認してから、当日に臨んでいます。
僕がお話しできるのは、自分が経験してきたことです。「こういう経験について話せます」と一度聞いてもらい、求められていることと合っているかを確かめておきたいの。最初は緊張しましたけど、最近は楽しめるようになりました。
お店で会ったら、親戚?
沖縄で育ったかつきさんは、いとこが大勢いるそうです。人数を聞くだけでも驚くのですが、お店での出会いにも続きがありました。
ご親戚も、すごく多いんですね。
父も母もきょうだいが多くて、それぞれ子どもがいるので、いとこも30人、40人……50人ぐらいになるのかな。
えっ、すごいですね!
子どもの頃は、いとこが集まるだけで20人ぐらいになったの。
運動会もすごそうですね。
お店で紹介された方と話していたら、実は親戚だったことも。
話していて、「もしかして親戚かな」と思ったことがあるんです。よく聞いてみたら、やっぱり親戚だったの。
へえ、そんなこともあるんですね。
そういうことは、ほかにもあるんです。人とのつながりって、思っているより近いのかもしれませんね。しかも、その親戚がすごくモテるの。すごく嫉妬しましたけどね(笑)。
まっちゃんがいたから
今はスタッフに仕事を任せながらお店を続けるかつきさんにも、頼りにしてきた人がいます。九州男の先代・まっちゃんについて聞きました。
かつきさんにとって、まっちゃんはどんな方だったんですか?
お父さんであり、お母さんでもあるような人です。東京に出てきて、頼れる人がいなかったときに、仕事をさせてもらったんです。東京で育ててもらった、という気持ちが強いですね。
28歳で東京に出てこられたんですよね。
そうですね。その頃は、本当にお金がなかったの。
そんなに大変だったんですか。
家には冷蔵庫も寝具もなくて。3月に、段ボールをかぶって寝ていたこともありました。
まっちゃんが大切にしていた「九州男」という名前には、どんな由来があるんですか?
まっちゃんが当時お付き合いしていた方が、「九州男ってつけなよ」と考えてくださった名前だそうです。まっちゃんが、とても尊敬していた方なんです。まっちゃんは「人生で一番の宝物は、このお店」と話していました。その大切なお店を、受け継がせてもらったと思っています。
そのお店を任されるときは、プレッシャーもあったんじゃないですか?
それはよく聞かれるんですけど、最初は全くなかったんです。
なかったんですね。
まっちゃんと二人でお店をやっていた頃は、頼れる人がいましたから。プレッシャーを感じたのは、コロナ禍と、まっちゃんが亡くなってからです。営業できなくても、スタッフの給料や家賃は必要なので、どうすればお店を続けられるのか考えました。
まっちゃんが亡くなって、自分がすべての責任を持つのだと感じるようになったの。そこで、経営者は孤独なんだなと思いました。まっちゃんがいる間は、気持ちの面でも頼っていたんでしょうね。今は慣れてきたので、押しつぶされるようなプレッシャーではありません。
まっちゃんが亡くなった後、ご家族を通して聞いたのは、お店のことだけでなく、かつきさん自身を気遣う言葉でした。
「かっちゃん、お酒は飲みすぎないでね。健康に気をつけてね」と。それと、「お店は毎日開けなくていいから、休みたいときはちゃんと休むんだよ」と話していたそうです。
毎日お店を開けていたまっちゃんから、そんな言葉があったんですね。
僕にとっても、毎日お店を開けるのが当たり前だったので、すごく意外でした。まっちゃん自身が大事にしていたことだから、僕に気を使ってくれたのかな、と思いました。
相談先を知っておきたい
九州男は、営業前の時間などに交流イベントの会場になることもあります。かつきさんは場所を貸すだけでなく、そこで知った情報にも目を通しておきたいと話します。
九州男では、いろいろなイベントも開かれていますよね。
お店が主催するのではなく、場所を提供しているんです。空いている時間に「こういうイベントをやりたい」と相談をいただいたら、使ってもらっています。
イベントの話を聞いていると、勉強になることがあるの。暮らしに困ったときに相談できる団体があることも、こういう機会がなければ知らなかったと思います。そういう団体があること、知っていました?
僕も、別の取材や、自分で調べる中で知りました。きっかけがないと、なかなかたどり着けない情報ですよね。
だから、自分でも資料に一度目を通しておきたいんです。必要としているお客さんがいたときに、「ここに連絡してみては」と、相談先を伝えられるようにしておきたいですね。
映画や講演など、これからも発信を広げていきたいという気持ちはありますか?
お店を知ってもらう機会にもなるので、予定が合えば出ていきたいですね。ただ、自分から発信や企画をするのは、あまり得意ではないんです。人がやることに参加するのは好きなの。声をかけていただいて、自分にできることが合うなら、ぜひ参加したいですね。
お店で開かれたイベントでは、「身近な人に自分の暮らしを話すこと」についても考える機会がありました。
カミングアウトを勧める話ではなくて、すでに自分のことを話している友達や家族に、暮らしや思いも伝えてみては、というお話でした。ニュースを見たときに「そういえば、友達のかっちゃんはゲイだったな」と思い出すことで、身近なこととして受け止めてもらえるかもしれない、と。
それを聞いて、自分に何ができるか考えたの。僕は普段から自分のことも話しているので、自分の暮らしを伝えることでもいいんだな、と思いました。
テニスとジムに夢中
最近の楽しみを聞くと、テニスとジムの話に。何となく続けるのではなく、今はやってみたいことがあるそうです。
お店のこと以外で、今ハマっていることはありますか?
約10年ぶりに硬式テニスを再開したの。今は真面目に練習しています。ジムにも本格的に通うようになりました。以前は、ジムに行っても目標を決めずにやっていたんです。今はテニスなら「こういうプレーがしたい」、ジムなら「100キロを上げたい」。目標を持つって、いいですね。
100キロですか。すごいですね。
次は、100キロを10回、それを3セットできたらいいなと思っています。もっと重いものを持つより、今はそこが目標ですね。何歳になっても、「欲しい」とか「やりたい」と思えることを探していたいです。
仕事でも、今の楽しさは大切にしながら、長くお店に立てるように考えているそうです。
ご自身の働き方や、お店のこれからについては、どう考えていますか?
何歳まで今のようにお酒を飲みながら働くのか、いつから少しゆっくりお話しするスタイルにするのか。お店をどうしたいかだけでなく、自分がどうありたいかも考えているの。そのうえで、次の人にどうお店を引き継いでいくかですね。大きなお店なので、急な出費など、何かあったときの備えも必要だと思っています。
今の営業スタイルは好きなので、すぐに変えるつもりはありません。最近は休みの日に飲みの予定を入れすぎないようにして、体のことも考えています。無理はしすぎず、チャレンジする気持ちは忘れずにいたいですね。
取材中、僕がゲイバーでの出会いについて話すと、「人との出会いに感謝できる人って、いろいろな意味で強いなと思うの。出会えることは、当たり前ではないですからね」と返してくれました。
初めての方も、気軽に
ここまで聞いたテニスや学食の話も、会話のきっかけになりそうです。最後は、これから九州男を訪れる人への言葉です。
初めて来る方には、どんなふうに楽しんでほしいですか?
「二丁目デビューです」「ゲイバーデビューです」という方も多いですよ。飲み方をこちらから決めることはないので、ご自分の好きなように楽しんでいただきたいですね。こちらからもお話ししますが、混み合う時間には、すぐに声をかけられないこともあります。
初めてだと、スタッフさんに話しかけるのも緊張しますよね。
緊張している様子を見て、こちらから「緊張してる?」と声をかけることもあるの。ただ、初めてかどうかまではわからないので、「初めてなんです」と言っていただけたら、それをきっかけにお話ししやすいと思います。あまり構えず、気軽に話しかけてもらえたらうれしいです。
やっぱり、笑顔だと話しかけやすいですよね。
そうですね。仏頂面ではいたくないですね(笑)。
ふらっと視点

学食で学生気分を楽しんだことも、話しすぎてせいじさんに時間を教えてもらうことも、笑い交じりに話してくれたかつきさん。こちらも最近あったことや、好きなことを話してみたくなりました。
講演では、聞く人に何を伝えるかを事前に確かめる。お店では、スタッフも「早く行きたい」と思えるようにしたい。その楽しさに、お客さんも加わってほしいと話します。冗談の合間に聞いたこうした言葉から、一緒に過ごす人への気遣いも感じました。
平日は比較的ゆっくり話せるそうです。かつきさんがいる日のカウンターで、「初めてなんです」とひと言。テニスやジムなど、この記事で気になった話から、会話を始めてみてください。
基本情報はこちら
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